いや、「別れた」というのは間違っているかもしれない。そもそも、俊太とはきちんと付き合ったわけじゃなかったのだから。沙和が俊太に入れあげていたことは確かだ。でも、最後まで俊太の気持ちは分からなかった。一度も「好きだ」と言われたことはなかったし、他の女の影を感じたことすらあった。
「私って、都合のいい女? ただのセフレにされてる?」
そう感じたこともあった。
もちろん、将来を考えられるような男じゃないことは、沙和だって分かっている。30歳を前にして、「時間のムダ」と言われればそれまでだ。
それなのに会っていると楽しくて仕方ない。
「こんな男のどこがいいんだろう」と自分でも不思議になるくせに、会うと離れられなくなる。そんな矛盾を抱えながら付き合うことに、心が消耗してしまい、沙和から別れを切り出した。
俊太は「えぇ~! もう会わないとか、寂しいこといわないでよ」と、一瞬神妙な表情を見せたものの、次の瞬間には「じゃあ、また気が向いたら連絡してよね!」と、あっけらかんと言い放ったのだ。
「ハ? 気が向いたら?」この別れを言うために、私がどれだけ苦しんで悩んだと思ってるの!?自分は俊太にとっていったいなんだったんだろう……。去っていく彼の後ろ姿を見ながら、そんなモヤモヤ感だけが残ったのだった。
あれから1年たっても、俊太の無邪気ぶりは相変わらずだ。
LINEを開くと
「久しぶり!最近元気?」
久々の連絡をする際には誰もが送るような、型で押したような文言のメッセージが。俊太が憎たらしいのが、沙和の心の隙間を見計らったかのような絶妙なタイミングで連絡をしてくること。
「私の心に盗聴器つけてる?」
そう疑いたくなるくらいだ。
実は、この1年間の間に、俊太からの連絡を受け、3度ほど会ってしまった。ただ食事をするだけなら……と言い聞かせて会ったはずだったが、3回とも食事だけでは終わらなかった。
絶対に自分を幸せにしてくれない男だと分かっている。
それならLINEをブロックしてしまえば済むのに、それはできない。俊太にまだ未練を抱いている自分が情けない。自分でもそう思う。
とりあえず、いったん既読スルーを決め込もう。そう思ってスマホを伏せた時、ふいに有紀が小声で耳打ちしてきた。
「実はね、私、結婚相談所に登録したの」