沙和は我に返った。その沙和の表情を見て、有紀も「あ、ヤバ……」というような気まずそうな表情を浮かべる。
だって、同期といっても、自分と有紀は違う。有紀は、いわゆる総合職。しかも、一般職で入社したにもかかわらず、昨年総合職に職種転換したツワモノ。
男性社員と同様にキャリアアップを目指して働き、有紀自身も「出世したい!」「男には負けたくない!」というガッツがもろに溢れ出ているタイプだ。最近の金融機関では、総合職、一般職という呼び名をやめ、両者の仕事の垣根をなくそうとしている。
でも、いわゆる「総合職」の人と自分とは、目指す将来像や仕事に傾ける情熱が全然違うんですけど。そう沙和は思っている。
こんなご時世だし、結婚したからといってすぐに「夢の寿退社♪」という女子は、それほど多くない。支店内にも、結婚後も仕事を続けている先輩がたくさんいる。
でも、沙和は知っている。左手薬指に輝くリングがある人とない人の間には、見えない大きな「線」が引かれていることを。
だからといって、いますぐに結婚できるわけでもないし、そもそも相手もいないし、出会いもない。だけど、後輩たちのようにはしゃいで合コンにでかけていく年齢は過ぎ去ったような気がしている。
ううん、年齢のせいじゃない。合コンに行くのが億劫になっているだけだ。
初対面の相手とあたりさわりない会話をしながら、幹事のコに迷惑がかからない程度に愛想をふりまき、感じのよい女を演出する。料理のとりわけも、女性陣から「狙ってる」と思われない程度に自然にやってのけ、グラスが空いている人がいればドリンクの追加注文をオーダーしてあげる。
「イイ男との出会い云々」以前に、参加者全員に気をつかいすぎて、1次会が終わるころにはクタクタだ。そんな沙和からすると、周囲のことなんておかまいなしで狙った男をグイグイと押していける女や、2次会に行くフリをして男と一緒に消える女の気がしれない。
いや、それはきっと嫉妬の裏返しだ。
自分だって、そんなふうに自由に振る舞ってみたいと心のどこかでは思っている。でも、できない。そんなことをして、他の女子から陰口を叩かれるのが怖いし、そもそも自分からガツガツとモーションをかけられるほどの自信もない。そんな現実を思い知るたびに、ため息がでる。
だからといって、有紀のようにバリキャリ目指して腹をくくれるかというと、そんな覚悟もなかったりする。
どっちつかずな自分が心の底からイヤになる。
「いったいあたしの未来、どうなるんだろう……」
この頃、週4回は繰り返しているこの言葉を、沙和は心の中でつぶやいた。いい人に出会って幸せな結婚をして、という未来はリアルに想像できない。でも、独身のまま、彼氏もできないまま、今と何一つ変わらずこの職場で働いてる自分の姿はありありと想像できてしまうのが怖い。
その時――。
沙和のスマホが鳴り、LINEのポップアップが表示された。
送り主は、俊太。
1年前に別れた元カレだ。